【いんさつ】例えば、誰でも小学校の図画工作の授業で木版画を習ったことがあると思います。
木の板を削って「版」を作り、その版にインクを付けてから紙を重ね、バレンで擦りながら圧力をかけて木版のインクを紙に転写する。この工程を繰り返せば、同じ内容の絵柄をたくさん作ることができます。
授業を受けている時にはそうとは思わないかもしれませんが、この工程がまさに印刷そのものなのです。
「印刷」の一番の特徴は、1つの「版」からたくさんの複製物を「印刷」できる、ということに尽きるでしょう。例えば印刷技術が確立される以前、ある文章から幾冊かの書物を作ろうとすると、たくさんの人が文章や挿絵を手書きするより方法がありませんでした(こうして手書きで写し取られた書物を「写本」と言います)。
ところが、例えば木版画のように、1ページ分の内容を1枚の板に掘り起こして「印刷版」を作り、その「版」にインクをつけて紙に転写すれば、同じ内容の文章をたくさん作ることができます。それどころか、人が1ページずつ手書きするよりもはるかに早く、そして正確に、たくさんの書物を作ることができるのです。
このように、たくさんの書物を従来よりも手軽に作れる印刷技術が開発されたことで、それまで一部の特権階級の人々しか読めなかった貴重な書物が、庶民にも行き渡るようになりました。こうしたことは、現代のインターネットやスマートフォンの普及と同じように情報のあり方をガラリと変えた、当時としては画期的な出来事だったのです。
もちろん、現在の印刷物は木版画で作られているのではありません。現在の印刷はオフセット印刷と呼ばれる印刷方法で、フルカラーで印刷されるのが一般的です。